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旭川地方裁判所 昭和47年(ワ)286号 判決

原告

下道ふさ

ほか一〇名

被告

中央運輸株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自、原告下道ふさに対し金九二万五九三六円、原告下道孝子、同吉田幸子、同下道一廣、同坪岡勝子に対し各金二七万一八四〇円、原告関口保子に対し金一一五万二八〇六円、原告関口正利、同関口邦夫、同関口万智子に対し各金二一万八七一一円、原告関口繁次郎、同関口マツエに対し各金五〇万円及び右各金員に対する昭和四七年八月二二日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その二を被告らの、その余を原告らの負担とする。

この判決は主文第一項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告らは各自、原告下道ふさに対し金二四九万三〇一四円と内金一六四万三〇一四円に対する昭和四七年八月二二日から、同下道孝子、同坪岡勝子、同吉田幸子に対し各金五〇万九一四八円、同下道一廣に対し金一〇〇万九一四八円と右各金員に対する前同日から、同関口保子に対し金二五五万四八三四円と内金一七〇万四八三四円に対する前同日から、同関口正利、同関口邦夫、同関口万智子に対し各金六二万四二一三円、同関口繁次郎、同関口マツエに対し各金五〇万円と右各金員に対する前同日からいずれも右支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

二  被告ら

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

(一)  事故の発生

訴外下道外二(以下亡外二という)及び同関口正夫(以下亡正夫という)は、次の交通事故により死亡した。

(日時) 昭和四七年二月二日午後三時頃

(場所) 北海道雨竜郡妹背牛町字新千代六番地先の道々妹背牛・秩父別線に町道山四線が交差する交差点

(加害車) 営業用普通貨物自動車(旭一い一四七七号)=ダンプカー

右運転者 被告竹村忠雄(以下被告竹村という)

(被害車) 自家用小型貨物自動車(旭四も四九八八号)

右運転者 亡正夫

(事故の態様) 亡正夫運転の被害車が右町道を東方から西方へ向けて右交差点を直進中、積雪のためスリツプして右交差点内に停止したので亡正夫と亡外二が降車して被害車をその前方から押していたところ、右道々を南方から北方へ向けて直進してきた被告竹村運転の加害車が被害車および亡外二、亡正夫に衝突し、両名は即死した。

(二)  責任原因

1 被告中央運輸株式会社(以下、被告会社という)

被告会社は加害車を保有しこれを被告竹村に運転させていたもので自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法三条に基づき、本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

2 被告竹村

本件事故は、被告竹村が加害車を運転中前記交差点にさしかかつた際、前方注視義務を怠つたため発生したものであるから、同被告は民法七〇九条に基づき本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

(三)  損害

本件事故によつて生じた損害は次のとおりである。

1 亡外二関係

(1) 医療費

原告下道ふさ(以下、原告ふさという)は、亡外二の医療費として金三、七六〇円を支払つた。

(2) 葬儀費用

亡外二の死亡にともないその葬儀に要した費用は金四七万〇九五七円であるが、原告ふさがこれを支払つた。

(3) 逸失利益

亡外二は本件事故当時六〇歳の健康な男子であり、酒類及び食料品販売業を営み年間金一七二万二二三〇円の収入を得ていた。したがつて、本件事故に遇わなければ同人は少なくともあと七年間稼働しその間右と同額の収入を得ることができたはずである。そこで同人の生活費を右収入の五割とみてそれを控除した純年収金八六万一一五〇円を基礎とし、ホフマン式計算法により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除して右期間中に得るであろう同人の純収入の現価額を算定すると金五〇五万八六四九円になる。

そして、原告ふさは亡外二の妻であり、原告下道孝子、同坪岡勝子、同吉田幸子、同下道一廣はその子供であるから、法定相続分にしたがい原告ふさにおいて右金額の三分の一にあたる金一六八万六二一七円を、その余の右原告らにおいてそれぞれ六分の一にあたる各金八四万三一〇八円を相続により承継した。

(4) 原告ふさら五名の慰藉料

右原告ふさら五名は本件事故により夫あるいは父である亡外二を失ない筆舌に尽し難い精神的苦痛を受けたので、これに対する慰藉料の額は妻の原告ふさ、長男の同下道一廣に対して各金一〇〇万円、その余の原告らに対して各金五〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用

原告ふさは、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その手数料及び成功報酬として各金五〇万円の計金一〇〇万円を支払う旨約し、そのうち金一五万円を支払つた。

以上によれば、本件事故によつて蒙つた亡外二関係の損害の合計額は、原告ふさにおいて金四一六万〇九三四円、同下道孝子、同坪岡勝子、同吉田幸子において各金一三四万三一〇八円、同下道一廣において金一八四万三一〇八円であるが、原告ふさら五名は自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険という)より金五〇〇万三七六〇円の支払を受けたので、これを各相続分に応じて右各金額から控除すると、その残額は原告ふさについて金二四九万三〇一四円、同下道孝子、同坪岡勝子、同吉田幸子について各金五〇万九一四八円、同下道一廣について金一〇〇万九一四八円となる。

2 亡正夫関係

(1) 医療費

原告関口保子(以下、原告保子という)は、亡正夫の医療費として金三、〇〇〇円を支払つた。

(2) 葬儀費用

亡正夫の死亡にともないその葬儀に要した費用は金三六万五五一五円であるが、原告保子がこれを支払つた。

(3) 逸失利益

亡正夫は本件事故当時四五歳の健康な男子であり、農業を営み年間金六七万円の収入を得ていた。したがつて、本件事故に遇わなければ同人は少なくともあと二〇年間稼働しその間右と同額の収入を得ることができたはずである。そこで、同人の生活費を右収入の五割とみてそれを控除した純年収金三三万五〇〇〇円を基礎としホフマン式計算法により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除して右期間中に得るであろう同人の純収入の現価額を算定すると金四五六万一三五八円になる。

そして、原告保子は亡正夫の妻であり、同関口正利、同邦夫、同万智子はその子供であるから、その法定相続分にしたがい原告保子において右金額のうち三分の一にあたる金一五二万〇四五三円を、その余の右原告らにおいてそれぞれ九分の二にあたる各金一〇一万三六三五円を相続により承継した。

(4) 原告保子らの慰藉料

右原告保子ら四名及び亡正夫の父母である原告関口繁次郎、同関口マツエは本件事故により夫あるいは父あるいは息子である亡正夫を失ない筆舌に尽し難い精神的苦痛を受けたので、これに対する慰藉料の額は原告保子に対して金一〇〇万円、その余の原告らに対して各金五〇万円が相当である。

(5) 弁護士費用

原告保子は、本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人に委任し、その手数料及び成功報酬として各金五〇万円の計金一〇〇万円を支払う旨約し、そのうち金一五万円を支払つた。

以上によれば、本件事故によつて蒙つた亡正夫関係の損害の合計額は、原告保子において金三八八万八九六八円、同正利、同邦夫、同万智子において各金一五一万三六三五円、同繁次郎、同マツエにおいて各金五〇万円であるが、原告保子らは自賠責保険より金四〇〇万二四〇〇円の支払を受けたので、これを原告保子、同正利、同邦夫、同万智子の各相続分に応じて右各金額から控除すると、その残額は原告保子について金二五五万四八三四円、同正利、同邦夫、同万智子について各金六二万四二一三円となる。

(四)  よつて、原告らは被告ら各自に対し、前記被告らの各損害賠償債権の残額及び未払分の弁護士費用を除く右各金員に対する本訴状送達の日の翌日である昭和四七年八月二二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(五)  なお被告会社の抗弁は争う。

二  請求原因に対する答弁

(一)  請求原因(一)項の事実については、事故の態様を除き認める。事故の態様は否認する。

(二)  同(二)項の1のうち、被告会社が加害車を保有しこれを自己のため運行の用に供していたことは認めるが、被告会社に損害賠償義務があることは争う。同2は否認する。なお、本件事故は亡正夫及び亡外二両名の一方的過失により生じたものである。

(三)  同(三)項の事実のうち、原告らの各相続身分関係、相続分及び亡外二、亡正夫の年齢は認めるが、右両名の職業は知らない。原告らが自賠責保険によりその主張のような金額を受領したことは認める。損害額は争う。

三  被告会社の抗弁

本件事故は亡正夫、亡外二の一方的な過失によつて生じたものであり、また、加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつたから自賠法三条但書により、被告会社は本件事故によつて生じた原告らの損害を賠償すべき義務を負わない。

第三証拠〔略〕

理由

一  原告ら主張の日時、場所において被告竹村運転の加害車が被害車に衝突し、その際、亡正夫及び亡外二の両名が即死したことは当事者間に争いがない。

二  そこで、本件事故の態様及びその原因について判断する。

(一)  原本の存在とその成立に争いのない甲第六、第七号証、証人柳賢一、同藤井保彦、同長岡良孝、同小塚君男の各証書及び被告竹村本人尋問の結果を総合すれば、本件事故現場は南方の妹背牛町方面から北方の秩父別町方面へ通ずる幅員八・一メートルの平坦なアスフアルト舗装の道々沼田・妹背牛線に、東方の深川市方面から西方の大鳳部落方面へ通ずる幅員五・八メートルの町道山四線が交差する地点であり、事故当時、付近には六〇ないし八〇センチメートルの積雪があり道々上の積雪は除雪されていたが路面は凍結し轍ができており、右道々は直線で見通しが極めて良く、事故当時小雪が降つていたがその見通しに支障はなかつたこと、また町道は道々に比較して除雪が完全でなかつたため、町道と道々と交差する地点では段差ができていて、その高さは少なくとも一〇センチメートル以上はあつたこと、以上の事実が認められる。

(二)  前掲甲第六号証、証人下道勉の証言により被害車の形状及び破損状況を撮影した写真であることが認められる甲第五号証の一ないし七、証人柳賢一、同藤井保彦、同長岡良孝、同小塚君雄の各証言及び被告竹村本人尋問の結果を総合すると、被告竹村はぐり石を積載して時速約五〇キロメートルの速度で加害車を運転し南方から北方へ向けて進行中、右交差点の手前約一四・五メートルの地点で被害車を発見し衝突の危険を感じ急制動の措置を講じたが間にあわず、右交差点において被害車と衝突し、加害車は右側前バンパーが凹凸状に破損し、左側後輪外側タイヤには亡外二を轢いたと思われる脳がタイヤ溝に附着しており一方被害車は左側ボンネツト、フエンダー、ラジエターが破損し、左側ドア及び窓が弓形状に変形していたがフロントガラスは破損せず、事故直後はドアは閉じた状態であつたこと、そして両車両が衝突した後、加害車は衝突地点から約二〇メートル北西方向の道路左側端にその前部を南方に向けて停止し、被害車は加害車の停止地点から南東方向へ約八メートルの道路右側端にその前部を西方へ向けて道路とほぼ直角に停車したこと、道々上には衝突地点から南方へ向けて長さ約一二メートルの二条のスリツプ痕があつたが、町道上にはスリツプ痕がなかつたこと、以上の事実が認められる。

(三)  前掲甲第六号証、弁論の全趣旨によつて成立の認められる甲第四号証、証人藤井保彦、同長岡良孝の各証言及び被告本人尋問の結果を総合すると、事故直後亡正夫は加害車の右後輪下付近に、亡外二は加害車と被害車を結ぶ直線上のほぼ中間地点の道路中央付近にそれぞれ転倒していたこと、亡正夫の死因は下顎骨々折、胸部腹部轢過創(肋骨々折、胸椎・腰椎骨折、内臓損傷を含む)等であり、亡外二の死因は頭部顔面開放骨折、胸部割創であり、両者とも加害車に轢過されたことが右の損傷の原因であること、以上の事実が認められる。

右に認定した各事実に、証人小塚君男の、「自分が事故現場付近から北西方向へ五・六〇メートル離れた山城宅の田でブルドーザを運転して雪踏作業をしていた際、本件事故の直前に右交差点内に被害車が停止しているのを認めた直後、道々上を南方から北方へ進行してくる加害車を目撃した」旨の証言を併せ考えると、亡正夫及び亡外二の両名は、被害車に乗つて町道を東方から西方へ進行して右交差点にさしかかつた際、同車が積雪でできた轍あるいは段差に入り込んだためか交差点内に立往生したので両名とも降車して様子を見るかあるいは被害車をその前方から押して動かそうとしていたところに、被告竹村の運転する加害車が衝突したため本件事故が発生したものと推認され、被告竹村本人尋問の結果中右認定に反する部分は前記認定事実に照らしてたやすく信用し難く、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そうだとすると、被告竹村が前方を十分注視して加害車を運転していたならば本件事故は未然に防止しえていたものと考えられるので、本件事故は被告竹村の前方不注視の過失により惹起されたものというべきである。

しかし、一方、本件事故現場は交差点であり被害車が交差点内に立往生し亡正夫ら両名は降車していたのであるから、両名とも左右の車両の通行に十分注意を払いつつ作業をし、車両が進行してきた場合には少なくとも一名はその車両に合図を送るなどの措置を講ずるべき(この注意義務は、被害車を運転していた亡正夫のみに課せられるものではなく、被害者両名に課せられるものと解する)であつたにもかかわらず、これを怠つた亡正夫ら両名にも過失があつたものというべきである。

そして、被告会社が加害車を保有し自己のためにこれを運行の用に供していたことは当事者間に争いがなく、右認定によれば被告会社の自賠法三条但書の免責の主張は理由がないこと明らかであるから、被告会社は本件事故によつて生じた損害を賠償する義務がある。

三  すすんで本件事故によつて生じた損害について検討する。

(一)  亡外二関係

1  医療費及び葬儀費用

原告ふさ本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二号証の一、第二号証の二の一ないし五三によれば、同原告は亡外二の医療費として金三七六〇円を支払つたこと、同人の死亡にともないその葬儀に際し葬儀代その他の諸経費として同原告主張の金四七万〇九五七円を超える費用の支払を余儀なくされたことが認められるところ、医療費についてはその全額を損害と認めることができるけれども、葬儀費用については亡外二の家族構成、収入等諸般の事情を考慮して右金額のうち金三〇万円を同人の葬儀を行うについて通常必要とする費用と認める。

2  逸失利益

成立に争いのない甲第二号証の三の一、二及び原告ふさ本人尋問の結果によれば、亡外二は、本件事故当時六〇歳の健康な男子であつて、酒類及び食品販売業を営み昭和四五年分の年間所得は金一七二万二三一三円であることが認められる。そうすると、同人が本件事故に遭遇しなければ少なくとも六七歳に達するまでは事故当時と同様に働きその間少なくとも原告ら主張の金一七二万二三〇〇円の収入を得ることができたものと認められる。そして同人の生活費は原告らが主張しているところにしたがつて右収入の五割とみて、右収入から右生活費を控除した純年収金八六万一一五〇円を基礎としホフマン式計算法(年毎式)により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除して、右期間中に同人が得るであろう純収入の現価額を算出すると金五〇五万八〇〇〇円となる(千円未満切捨)。

そして、原告ふさが亡外二の妻であり、原告下道孝子、同坪岡勝子、同吉田幸子、同下道一廣がその子供であることは当事者間に争いがないので、亡外二の右逸失利益はその法定相続分にしたがい、原告ふさにおいて金一六八万六〇〇〇円を、その余の右原告らにおいて各金八四万三〇〇〇円を相続により承継したものと認められる。

3  過失相殺

以上認定したところによれば、本件事故によつて生じた亡外二関係の右損害額は原告ふさにおいて計金一九八万九七六〇円、その余の右原告らにおいて各金八四万三〇〇〇円となるが、前記二で判示したとおり本件事故の発生につき亡外二らにも過失があるところ、前記認定の事故の態様等を考慮するとその過失割合は被告らを六とし、亡外二らを四とするのが相当である。そこでその過失の程度に応じて右各損害額から四割を減ずると右各損害額のうち被告らが右原告らに対して賠償の責を負うべき額は原告ふさにつき金一一九万三八五六円その余の右原告らにつき金五〇万五八〇〇円となる。

4  右原告ら五名の慰藉料

原告ふさが亡外二の妻、その余の右原告らがその子供であることは前記認定のとおりであり、亡外二が本件事故のため即死したことによつて右原告ら五名が甚大な精神的苦痛を蒙つたことは容易に推認できるところ、これに亡外二らの本件事故における過失等を考慮すると、右精神的苦痛に対する慰藉料は原告ふさが金一二〇万円、その余の右原告らが各金六〇万円とするのが相当である。

5  損害の填補

しかるところ、原告らが自賠責保険より金五〇〇万三七六〇円を受領したことは原告らの自認するところであり、これを前述原告らの相続分の割合に応じて右各金員から控除すると、その残額は原告ふさにつき金七二万五九三六円、その余の原告らにつき各金二七万一八四〇円となる。

6  弁護士費用

原告ふさ本人尋問の結果によれば、同原告は本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士林信一に委任し、その手数料及び成功報酬として金一〇〇万円を支払う旨約し、うち金一五万円を支払つたことが認められるけれども、本件審理の経過、請求の認容額等諸般の事情を考慮すると、右原告らとの関係で被告らにおいて負担すべき弁護士費用の額は金二〇万円とするのが相当である。

(二)  亡正夫関係

1  医療費及び葬儀費用

原告保子本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したと認められる甲第三号証の一、第三号証の二の一ないし一五によれば、同原告は亡正夫の医療費として金三〇〇〇円を支払つたこと、同人の死亡にともないその葬儀に際し葬儀代その他の諸経費として計金二八万八二三五円の支払を余儀なくされたことが認められる。そして、医療費についてはその全額を損害とみることができ、また、葬儀費用については亡正夫の家族構成、収入等諸般の事情を考慮するとその葬儀のためには通常右の程度の経費を要するものと認められるので右金額全額を損害と認める。

2  逸失利益

成立に争いのない甲第三号証の三の一ないし三及び原告保子本人尋問の結果によれば、亡正夫は本件事故当時四五歳の健康な男子であり、農業に従事して昭和四五年の年間所得は金六七万四七〇〇円であることが認められる。そうすると、同人が本件事故に遭遇しなければ少なくとも六五歳に達するまでは事故当時と同様に働きその間少くとも原告ら主張の金六七万円の収入を得ることができたものと認められる。そして同人の生活費は原告らの主張にしたがい右収入の五割とみて、右収入から右生活費を控除した純年収金三三万五〇〇〇円を基礎としホフマン式計算法(年毎式)により民事法定利率年五分の割合による中間利息を控除して右期間中に同人が得るであろう純収入の現価額を算出すると金四五六万一〇〇〇円となる(千円未満切捨)。

そして、原告保子が亡正夫の妻であり、同関口正利、同邦夫、同万智子がその子供であることは当事者間に争いがないので、亡正夫の右逸失利益はその法定相続分にしたがい、原告保子において金一五二万〇三三三円を、その余の右原告らにおいて各金一〇一万三五五五円を相続により承継したものと認められる。

3  過失相殺

以上認定したところによれば本件事故によつて生じた亡正夫関係の右損害額は原告保子において計金一八一万一五六八円、同正利、同邦夫、同万智子において各金一〇一万三五五五円となるが、前記二で判示したとおり本件事故の発生につき亡正夫らにも過失があるところ、その過失割合は亡外二関係と同様被告らを六とし、亡正夫らを四とするのが相当である。そこでその過失の程度に応じて右各損害額から四割を減ずると右各損害額のうち被告らが右原告らに対して賠償の責を負うべき額は原告保子につき金一〇八万六九四〇円原告正利、同邦夫、同万智子につき金六〇万八一三三円となる。

4  右原告ら及び原告関口繁次郎、同マツエら六名の慰藉料

原告保子が亡正夫の妻、同正利、同邦夫、同万智子がその子供であることは前記認定のとおりであり、また原告関口繁次郎、同マツエがその父母であることは当事者間に争いがないので、亡正夫が本件事故のため即死したことによつて右原告ら六名が甚大な精神的苦痛を蒙つたことは容易に推認できるところ、これに亡正夫らの本件事故における過失等を考慮すると右精神的苦痛に対する慰藉料は原告保子が金一二〇万円、その余の原告らが各金五〇万円とするのが相当である。

5  損害の填補

しかるところ、右原告らが自賠責保険より金四〇〇万二四〇〇円を受領したことは右原告らの自認するところであり、これを前記亡正夫の逸失利益を相続した原告ら四名の相続分の割合に応じて右各金員から控除すると、その残額は原告保子につき金九五万二八〇六円、原告正利、同邦夫、同万智子につき各金二一万八七一一円となる。

6  弁護士費用

原告ふさ本人尋問の結果によれば、原告保子は本件訴訟の追行を原告ら訴訟代理人弁護士林信一に委任し、前記同様の約束をしてうち金一五万円を支払つたことが認められるけれども、本件審理の経過、請求認容額等諸般の事情を考慮すると、右被告らにおいて負担すべき弁護士費用の額は金二〇万円とするのが相当である。

四  そうすると、被告らは各自、原告ふさに対し、前記医療費、葬儀費、逸失利益、慰藉料の残額及び弁護士費用の合計金九二万五九三六円、原告下道孝子、同吉田幸子、同下道一廣、同坪岡勝子に対し前記逸失利益、慰藉料の残額各金二七万一八四〇円、原告保子に対し前記医療費、葬儀費、逸失利益、慰藉料の残額及び弁護士費用の合計金一一五万二八〇六円、原告関口正利、同邦夫、同万智子に対し前記逸失利益、慰藉料の残額各金二一万八七一一円、同繁次郎、同マツエに対し前記慰藉料の各金五〇万円及び右各金員に対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和四七年八月二二日からそれぞれ支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

五  よつて、原告らの本訴請求は以上の説示の限度において理由があるからその範囲で正当としてこれを認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 長谷喜仁 三上英昭 阿部則之)

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